<血栓形成>
1. 一次止血
1-1. 一次凝集(①~③)
血管の損傷部位に von Willebrand 因子(vWF)を仲介して血小板が接着し、血小板主体の血栓ができる。
1-2. 二次凝集(④~⑤)
血小板が活性化し、フィブリノゲンや vWF を介した血栓を形成する。
2. 二次止血(⑥)
血液凝固因子の反応により、フィブリノゲンがフィブリンとなる。
フィブリンは最終的に重合して安定化した血栓を形成する。
<血小板の活性化>
通常、血小板はフィブリノゲンと結合する受容体を発現していないが、 vWF と GPIb 受容体を介して血管の破損部位に接着することで、フィブリノゲンと結合できる GPIIb/IIIa 受容体を発現する。また、活性化した血小板は周囲の血小板を活性化させる。
活性化した血小板は、トロンボキサンA2(TXA2), セロトニン(5-HT), アデノシン二リン酸(ADP) 等を放出する。
TXA2 と 5-HT は、それぞれ血小板上の受容体に結合し、ホスホリパーゼC(PLC)を活性化して血小板内のカルシウムイオン濃度を上昇させる。一方で ADP は受容体を介してアデニル酸シクラーゼ(AC)を抑制し、細胞内カルシウムイオンの低下を抑制する。
また、カルシウムイオン濃度の上昇に伴い、ホスホリパーゼA2(PLA2)が活性化し、アラキドン酸カスケードを経て TXA2 が合成される。
<血液凝固カスケード>
1. 内因系
すべて血液内の凝固因子でまかなわれる、第XII因子から始まるカスケード。
第XII因子の活性化から始まり、第XI因子、第IX因子、第VIII因子の活性化を経て、第X因子を活性化する。
活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)で観察しているのはこちら。
2. 外因系
細胞損傷などにより血液中に流出する組織因子を介したカスケード。
第VII因子の活性化をもって、第X因子を活性化する。
プロトロンビン時間(PT)で観察しているのはこちら。
3. 共通系
第X因子の活性化以後の共通カスケード。
第X因子の活性化から始まり、第V因子、第II因子、第I因子の活性化を経て、フィブリンを形成する。
<出血性疾患>
1. 血友病
凝固因子をコードする遺伝子の劣性遺伝により生じるため、ほとんどが男性である。
第VIII因子の欠損もしくは活性低下を血友病A、第IX因子の欠損もしくは活性低下を血友病Bに分類する。
第VIII因子、第IX因子ともに内因系凝固因子のため、PTは延長せずAPTTのみ延長する。
また、血小板に異常はないため、出血時間は正常。
2. von Willebrand病(vWD)
von Willebrand因子(vWF)をコードする遺伝子の異常により、vWFの欠損もしくは活性低下により発症する。
一次止血が出来ないため、出血時間が延長する。
凝固因子が正常の場合は、PT、APTTは延長しない。
3. 紫斑病
3-1. 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
急性: 小児に多く見られ、ウイルス感染による抗体や抗原抗体複合体による血小板障害が原因
慢性: 成人女性に多く見られる。血小板に対する自己抗体の産生が原因
一次止血が出来ないため、出血時間が延長する。
凝固因子が正常の場合は、PT、APTTは延長しない。
3-2. 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
何らかの原因により微小血管が傷害され血小板血栓ができ、大量の血小板が消費されることが原因。
先天性と後天性があるが、後天性が95%以上である。
一次止血が出来ないため、出血時間が延長する。
凝固因子が正常の場合は、PT、APTTは延長しない。
4. 播種性血管内凝固症候群(DIC)
全身血管内で持続的な凝固活性化により微小血栓が多発し、凝固因子と血小板が使い果たされる事が原因。
敗血症などで血管内皮細胞が破壊され、組織因子が血中に漏出することで外因系のカスケードが活性化し、フィブリン血栓ができる。
また、線溶系も活性化しているため、出欠部位で血栓の溶解による出欠傾向もある。
インドメタシンやアシクロビル、ドセタキセルなどの薬剤により引き起こされることも。
凝固に関与するすべての因子が消費されるので、出血時間、PT、APTTのすべてが延長する。
<抗血栓薬>
1. 抗血小板薬
1-1. TXA2の合成阻害
1-1-1. COXの阻害
COX1の作用を阻害する事でTXA2の産生を抑制する。
薬剤:アスピリン系
1-1-2. TXA2合成酵素の阻害
TXA2合成酵素を阻害することで、TXA2の産生を抑制する。
薬剤:ドメナン、ベガなどのオザグレル製剤
1-2. cAMP濃度の上昇
1-2-1. ホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害
cAMP分解酵素である PDE を阻害して血小板内カルシウムイオン濃度を下げる。
薬剤:プレタール、プレタミラン、シロスレットなどのシロスタゾール製剤
ペルサンチン、アンギナールなどのジピリダモール製剤
1-2-2. PGI2受容体の刺激
PGI受容体を刺激してACを活性化し、cAMPの濃度を上昇させる。
薬剤: ドルナー、プロサイリンなどのベラプロスト製剤
1-2-3. PGE1受容体の刺激
PGE受容体を刺激してACを活性化し、cAMPの濃度を上昇させる。
薬剤:オパルモン、プロレナールなどのリマプロスト製剤
1-2-4. ADP受容体の遮断
AC を抑制するシグナル伝達を出すADP受容体を遮断し、ACを活性化する。
薬剤:パナルジン(チクロピジン)、プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)
1-3. PLCの活性化抑制
1-3-1. 5-HT2受容体の遮断
PLCを活性化するシグナル伝達を出す5-HT受容体を遮断し、カルシウムイオン濃度の上昇を抑制する。
薬剤: アンプラーグ(サルポグレラート)
2. 抗凝固薬
2-1. 凝固因子の合成阻害
凝固因子の合成を阻害する。
薬剤: ワーファリン(ワルファリン)
ワーファリンは第X因子、第IX因子、第VII因子、第II因子の合成を阻害する。
上述の4因子は、肝臓でビタミンK関与の基に合成が行われているが、ワーファリンはビタミンKに拮抗することで合成を阻害する。そのため、納豆やクロレラなどのビタミンKを含む食品の摂取は効果を弱めるため、避ける必要がある。
2-2. 活性型第X因子の阻害
活性型の第X因子は、凝固カスケード下流でプロトロンビンをトロンビンに変換する。
この活性型第X因子を阻害することでトロンビンの産生を抑制し、抗凝固作用を示す。
薬剤: エリキュース(アピキサバン)、イグザレルト(リバーロキサバン)、リクシアナ(エドキサバン)
2-3. アンチトロビンIIIの活性化
アンチトロンビンを活性化させることで活性型因子を不活性化し、抗凝固作用を示す。
薬剤: ヘパリン系、アリクストラ(フォンダパリヌクス)
なお、アリクストラはヘパリンと異なり、活性型第X因子を選択的に不活性化する。
2-4. トロンビンの活性阻害
トロンビンの活性を阻害することで、フィブリンの生成や凝固カスケードの活性化を抑制する。
薬剤: スロンノン、ノバスタンなどのアルガトロバン製剤、プラザキサ(ダビガトラン)
<血栓溶解薬>
フィブリンを溶解するプラスミンの生成を促進する。
ただし、血栓形成から時間経過ごとに効果が薄くなる。適応範囲は血栓形成から4.5時間以内。
薬剤: アルテプラーゼ、モンテプラーゼ、パミテプラーゼなどの t-PA 製剤